
さまざまな業種において、Webサイトは事業に欠かせないツールの一つとなり、その活用状況をチェックするためのレポートやダッシュボードの作成依頼も、いろんな部署・立場の方からいただくようになってきました。
業務に役立つレポートやダッシュボードを作るためには、まず以下の5つのことを頭に入れておく必要があります。
- Web経由での売上・問合せ・広告運用などの状況や課題(分かる範囲で)
- 見る人の立場(Web統括、広告担当、販売担当、Web担当など)によって必要なデータが違う
- 提示するデータは見る人に必要なものだけに絞る
- Webサイトには “改善したくてもできない” 場所があることを知る
- 自分自身でも必ずサイトを隅々まで見て使っておく
今回は、上記のことを踏まえ(過去案件での若干の反省も踏まえつつ)、Webサイト改善に役立てるためのレポートとダッシュボードの設計について書かせていただきます。
なお以下の例は、あくまでも私がこれまで担当してきたクライアント様の傾向である点、なにとぞご了承ください。
Webサイトの運用・改善におけるレポートとダッシュボードの役割
レポート・ダッシュボード設計の話を始める前に、レポートやダッシュボードを作成する目的と、「レポート」と「ダッシュボード」の違いについてお話ししたいと思います。
Webサイトの改善にレポートやダッシュボードが必要な理由
まず、何のためにレポートやダッシュボードが作られているか?
それは、主に下記の理由ではないかと私は考えています。
- ダッシュボードやレポートで状況を可視化することで、サイトの変化や異常を早期発見しやすくなる
- サイトの状態を可視化することにより、関係者間で問題点や課題を共有しやすくなる
- 課題や問題点が客観的な数値として見えているため、改善の方向性がブレにくい
- サイトの改善前に分析環境を整備しておけるため、効果検証〜PDCA改善のフローがスムーズになる
もちろん、この世には例外というものもあって「仕事してる感を出すためだけに作られている誰も見ないレポートやダッシュボード」というものも仕事柄たまに見かけますが、せっかく作るのなら、ぜひ役に立ててほしいものです。
レポートとダッシュボードの違いは何か?
次に、お客様からも時々ご質問を頂く「レポートとダッシュボードの違い」ですが、
「見る人にとって必要な数値のみをピックアップして、整理したデータ画面やドキュメント」という点では同じです。
両者の違いは役割と使われ方で、私の考えでは下記のようになります。
- ダッシュボードの役割:毎日〜数日ペースで、重要なデータのみを短時間でチェックし、変化や異常を早期発見→共有する。短時間でチェックしやすくするため、1〜3画面程度にまとめられることが多い
- レポートの役割:毎月〜半年ペースで、業務に関係するデータをじっくり一通りチェックし、集客施策やサイトの改善につなげる。分析者のコメントや改善提案を伴うことも多い。
ただし、人によって「ダッシュボード」や「レポート」に求めることは違うので、初期の段階で関係者全員とのすり合わせをおこない、その議事録を残しておくことが、後々での手戻りやクレームを防ぐことにつながります。
成果を上げるためのダッシュボード・レポート設計例
Web改善に必要なKPIの選び方
KPIの選定をするには、冒頭に書いた5つのポイントのうち、下記の3つが重要になります。
- 見る人の立場(Web担当、広告担当、Webマーケ部門統括など)によって必要なデータが違う
- 提示するデータは見る人に必要なものだけに絞る
- Webサイトには “改善したくてもできない” 場所があることを知る
まず1つ目の「見る人の立場」については業種や企業の体制によって変わりますが、大きく下記の3グループぐらいに分けられると思います。
- Webサイト運用担当
- Web広告運用担当
- Webマーケティング統括
ただし、弊社のクライアントの皆様の場合、2.の広告運用部門向けについては「広告の管理画面だけで間に合っているから不要」とのことで、作成しないことも多いです。
Webサイト運用担当者向けのダッシュボードとレポート
Webサイト運用担当者向けのダッシュボード・レポートが、もっともボリュームが多くなる傾向があります。
まず、ダッシュボードでのチェック項目(=KPI)は、
- GA4:
- サイト全体でのPV数・セッション数・AU数(=アクティブユーザー数)・CV数
- 主要コンテンツのPV数(商品カテゴリ別PVなど)
- 主要LPのセッション数、エンゲージメント率、CV率
- サーチコンソール:
- サイト全体でのクリック数・表示回数・CTR
- 主要クエリのクリック数・表示回数・CTR・平均掲載順位
次に、レポートでのチェック項目は、上記に加えて、
- GA4:
- デバイスカテゴリ別のPV数・セッション数・エンゲージメント率・平均セッション滞在時間・CV数
- サイト内検索キーワード
- ダウンロードファイル(PDF・ZIPなど)のDL数ランキング
- ページ別のPV・平均滞在時間・離脱数
- 購買プロセスのファネルレポート
- Clarity:
- 主要LPや商品ページのクリックマップ・アテンションマップ
- 上記ページクリックマップのAI分析レポート、レコーディング動画のAI分析レポート
などが加わってくることが多いです。
なお、Clarityにはデータエクスポート用のAPIがありますが、現時点では、一度に3日分のデータしか取得できない、1日10回しかデータを取得できない、ダッシュボードの数値しか取得できない、という難点があるため、当面は、画面共有で直接Clarityの画面で説明するか、PNGやCSVを手動でダウンロードして使用するしかなさそうです。
Webサイト運用担当者様の場合は、改善施策に時間や工数がかかることが多いため(ページの改善やリライトなど)、「ダッシュボードもチェックするけど、改善提案付きのレポートを毎月じっくり見て研究したい」という方が多いような印象を受けます。
なおダッシュボードは、どちらかと言うと、サーバやCMSトラブルによるアクセス減少・Google検索からのアクセス急減などの異常検知に使われていることが多いようです。
なお、改善提案をする際は「コスト面・管轄面などの問題で、分かっていても手をつけられない場所がある」ことを忘れないようにしてください。(必ず事前ヒアリングで確認してください!)
これを怠って、うっかり提案してしまうと、担当者の皆さんに思いっきり苦笑い、または軽くお説教されます(めちゃくちゃ恥ずかしいです!)
Web広告運用担当向けのダッシュボード
先ほども書いた通り、Web広告運用においては、各媒体の管理画面のKPIをそのまま見るのが一番シンプルです。
ただし、少人数で多数の媒体に出稿されている場合、全媒体の出稿状況を一目でチェックするためのダッシュボード作成があると非常に便利です。
今まで担当した案件では、各媒体社のカスタマーサポートに直接問い合わせながら(御社スタッフとして、カスタマーサポートとの直接対応も代行しています)
- Looker Studioで直接広告データを取り込み
- 直接取り込めない場合は、APIなどでスプレッドシートやBigQueryに広告データに取り込んでから、Looker Studioに出力
といった方法で、全媒体の状況を一覧できるダッシュボードをLooker Studioで作成しています。
Webマーケティング統括向けのダッシュボード
Webマーケティング統括の方向けのポイントは「お金」になることが多いです。
項目としては、
- 各広告媒体のコストと、広告経由の売上額(広告キャンペーン別・広告グループ別)
- 広告以外のコスト(LP製作費・サーバ費用など)
- Web運用全体に関する総コストと総売上(楽天・Amazonなどの出店コストと売上も含む)
といった感じになります。
一度だけ、社長様用のダッシュボード(当時はLooker Studioがなかったので、旧GAのカスタムレポートを使用)を作成したことがありましたが、その方が「データをじっくり見る時間がないので、入口と出口の数字だけわかるようにしてください」と仰っていたのが、今でも耳に残っています。
Webアナリストの私が言うのもなんですが「Web解析自体はお金を生まない!」ので、データを見る時間はなるべく抑えて【提案→A/Bテスト→改善】の実行プロセスに時間とエネルギーを使うように心がけてください。
ダッシュボード・レポート作成後の運用と改善
ダッシュボードやレポートができたら、ようやくデータ運用のスタート地点に到着したことになります。
まずは、ダッシュボードとレポートに慣れて頂くためのオンラインレクチャーと定例MTGを実施します。
定例MTGは、データ活用状況のセルフチェックや、ダッシュボード・レポートの使いにくいところを調整するためのもので、最低でも3ヶ月〜半年ぐらいは続けた方が良いと思います。(数年以上、継続されているお客様も多いです)
外部パートナーのWebディレクターやデザイナー、広告代理店なども同席可能ですので、相談されたいことなどがあるときは、お気軽にお申し付けください。
データ活用に必要なポイントは下記の5つです。
- ダッシュボードやレポートを見る習慣をつける
- ダッシュボードやレポートが使いにくいと思ったら、どんどん改善する
- サイトの問題点や改善点を見つけたら、すぐにA/Bテストをしてみる
- A/Bテストの結果、仮説が正解だったら、可能なところからサイト改善を進める
- サイトを改善した後は、必ず効果検証をする
ダッシュボード・レポートを活用して、結果の出せるWeb改善・Web運用を進めていきましょう!